2015年2月19日木曜日

「国立公園におけるトレイルランニング大会等の取扱い」に思ったこと

 2月17日(火)に新宿御苑で開かれた「国立公園におけるトレイルランニング大会等の取扱いに関する説明会」に参加してきました。会場はほぼ満員,登山関係者,おそらくトレイルラン大会の関係者,愛好者,自然保護団体の方などだったでしょうか。

 最初に内容を理解していただくために,かなり詳細に国立公園制度の説明がなされました。この機会に多くの方に知っていただくよい機会になったかと思います。

 取扱いの内容については,すでに何人かの方がブログ等で紹介されています。私が気になったのは,コース設定に特別保護地区(特保)と第一種特別地域(一特)を原則回避すべきとしている点と,モニタリングの扱いです。コース設定については,

    • コース設定に関する基本的な考え方
      • 国立公園の中でも厳正な保護を図っている特別保護地区及び第1種特別地域、それに準ずる自然環境をもつ場所は、原則回避。
      • ただし、部分的に通過する際に、植生帯への踏み出しや土壌浸食の防止措置が講じられている等により自然環境等への影響が発生しないと考えられる場合には、地域の状況に応じ判断。

となっていますが,これは私が以前より指摘しているように,特保や一特が生物多様性や希少種保全の観点から必ずしもゾーニングされているわけではないという問題を認識しておく必要があります。公園計画の課題を指摘した過去の記事および林業経済学会の論文日本造園学会の論文にその問題点の詳細は書きました。そのため,必ずしも現状の特保や一特だけが基準にできない場合もあり,他にも重要な場所が漏れている可能性があるという視点を持つべきです。ですから,「準ずる」場所も回避対象にするという表現が入っているのだとは思います。また,特保や一特であっても車道(舗装道や林道を含む)が走っている場合もあり,今回の取り扱いの対象とする道はそれらや,公園計画には指定されていない歩道も含むのかという質問をさせていただきました。これらの問題があることは,一般には知られておらず,少なくとも今回の取扱いに関係する方々には知っておいていただきたい課題だと思います。

また,モニタリングについて大会の主催者には,

    • モニタリングの実施
      • トレラン大会等の開催による自然環境等への影響について、把握している情報に応じたモニタリングを大会主催者により実施する。
      • 大会主催者の事前調査により、モニタリング対象及び地点を抽出する。
      • 大会主催者は、事前事後の写真撮影などにより影響を評価する。
    • モニタリングにより、万一環境の改変等が確認された場合は、大会主催者による原状回復を行う。

が,求められます。ただ,これだけでは,主催者の方々がモニタリングをイメージするのは難しいでしょう。実際にどういったモニタリングをすべきかという質問も会場から出ていました。環境や地域の特性によって異なるので,各公園の担当とよく相談して欲しいという回答でしたが,基本的なモニタリングのあり方や方法については,環境省として整理しておくのがよいのではと私は思っています。

 トレラン大会も含まれるアドベンチャーレースにはこれまでのレクリエーション・エコロジーの研究蓄積から,様々な懸念がもたれているのも事実で,オーストラリアでは考えられるインパクトをまとめた論文もまとめられています。これらと開催地の特性,地域の関心事も踏まえ,モニタリング項目を抽出することになるでしょう。ただ,大会のそのものか通常の登山の影響か,または環境の変化によるものかを分離するのは難しいことが考えられます。環境変化や通常のレクリエーション利用に関する長期的モニタリングと,一時的なイベント等の影響に関する短期的モニタリングを組み合わせて実施するのが妥当です。
 長期的モニタリングまで,トレラン大会主催者に担わせるのは無理があります。関係機関,団体,地元で行っていくモニタリングの中に,短期的モニタリングも位置づけて,連携していく体制づくりが必要でしょう。短期的には,走ったり,追い抜いたりすることによって,土壌侵食を加速していないか,路傍の植生を踏みつけていないか,周辺の小動物の生息は影響がなかったかなど,トレイルランニング大会等が顕著に関与したかがモニタリングのポイントになるでしょう。直前と直後に位置情報付きの写真撮影等が考えられますが,大半の影響はコース設定や開催時期の工夫で回避できるはずです。そのためにも,普段から長期的モニタリングが重要となりますが,そういったことが行われ蓄積されている公園はまだそれほど多いわけではないことも認識しておくべきです。
 登山道などのモニタリングの方法については,私も共著者となっている以下の図書が参考になると思いますが,具体的で一般の方にも取り組める方法などについてはもっと情報が必要ですね。そういった情報の収集と普及にも取り組んでいきたいと思います。
 渡辺編著:登山道の保全と管理 (自然公園シリーズ)
 敷田・森重編著:地域資源を守っていかすエコツーリズム 人と自然の共生システム
 

2015年2月7日土曜日

富士山科学研究所公開講座 「自然公園としての富士山-6」

2015年3月1日10:00−16:00
山梨県富士山科学研究所1階ホール

主催:山梨県富士山科学研究所国際シンポジウム2014実行委員会
協力 : 環境省環境研究総合推進費「接続的地域社会構築の 核としての自然地域の評価・計画・管理・合意形成手法 の開発」事業

講演「 米国アディロンダック公園における地域制公園の管理 」
アディロンダックマウンテンクラブ John D. Million
「 北米における地域制公園について 」
東京農工大学大学院農学研究院 土屋俊幸

パネルディスカッション
「富士山世界遺産」 山梨県知事政策局 市川満
「世界遺産 屋久島の管理~現場から見た奇妙な状況 」(有)屋久島野外活動総合センター 小原比呂志
「 小笠原と知床・世界遺産の協働型管理 」環境省自然環境局 生物多様性センター 中山隆治
「 山と渓谷社は、なぜ登山道整備にお金を出しているのか?」(株)山と渓谷社、(公財)日本自然保護協会 神谷有二
「 大雪山国立公園における登山道管理水準と協働型管理 」北海道大学大学院 農学研究院 愛甲哲也

※講演者、題目は変更となる場合があります。予めご了承ください。

日英同時通訳

お問い合せ/申し込み先
山梨県富士山科学研究所国際シンポジウム2014 「自然公園としての富士山-6」 実行委員会事務局
TEL:0555-72-6201 FAX:0555-72-6204 E-mail:horiuchi-m@mfri.pref.yamanashi.jp